【関係者間の建物売買における適正価格】
関係者間で一体の土地建物のうち建物のみを売買する場合、課税リスクを抑えるためにも適正価格で売買する必要がありますが、この場合の適正価格はどのようにして求めるのでしょうか?最も有効なのは不動産鑑定評価による鑑定評価額であるとされています。不動産鑑定評価は国土交通省によって定められた不動産鑑定基準という基準を用いて、国家資格者である不動産鑑定士が不動産価格を評価するものであり、説得力・説明力に優れたものだからです。
今回は不動産鑑定評価において建物価格を求める方法について解説します。
不動産鑑定評価基準では土地と建物は一体として効用をなすもの、としています。とすれば、まったく同じ建物であっても、土地と一体としてみた場合の状況によって、その価格に差が生じてくることとなります。
例えば、築年・構造・材質等が全く同じ建物であったとしても、人口が多く常に満室稼働している一棟賃貸マンションAの建物部分と、人口減少が著しく空室が多い一棟賃貸マンションBの建物部分とではその価格は同一とはならないのです。では、不動産鑑定評価においてはどのような手順で建物価格を求めるのでしょうか。
本件のような場合、以下の二つの手法を用いることになります。
①価格時点において建物を新たに建築する場合の建築費である再調達原価から、その経済的残存耐用年数を考慮した減価を控除して求める原価法による価格(積算価格)
②土地建物一体としての価格について、土地建物の価格割合に応じて配分して求める価格。この場合の土地建物一体としての価格は、取引事例比較法によって求めた土地価格に①の建物価格を加算して求める土地建物一体としての積算価格と、マンションの賃料収入に基づき収益還元法を用いて求めた収益価格から求める
①の手法の適用では、それぞれの経済的残存耐用年数の査定において、AとBに格差が生じてきます。単にいつ建築され、建物があと何年物理的に使用可能なのかということだけでなく、あと何年経済的・合理的に価値を維持できるか?考慮します。本件では高稼働のAは経済的残存耐用年数が相対的に長く、低稼働のBは経済的残存耐用年数が相対的に短く査定されることになります。結果、経済的残存耐用年数がより長いAの方が高い価格となります。
一方②の手法では、建物及びその敷地の一体としての収益価格について、AとBでは乖離が生じます。高稼働のAの収益価格は相対的に高く、低稼働のBの収益価格は相対的に低く算定されることになります。よって、それぞれを土地建物に配分した建物価格もAの方が高い価格となります。
①と②の手法で求めた価格それぞれのウェイトをどの程度にするかは、個別の案件によって検討され、一定の決まりはありませんが、賃貸マンションであれば②の手法で求めた価格に重きを置く場合が多いと思われます。
以上のように、土地建物一体としての建物のみを求める場合の鑑定評価は意外にも複雑で多くの工数を必要とします。そのため、鑑定評価報酬もそれなりになってしまいますが、その信頼性と説得力は非常に高く、対税務署において非常に有効な説明資料となるのです。
投稿者プロフィール
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1976年、栃木県生まれ。横浜国立大学卒業。近畿日本ツーリスト株式会社、株式会社有線ブロードネットワークス(現・株式会社USEN)、株式会社アグレックスなど、さまざまな業界を経て平成20年に不動産鑑定士試験論文式試験に合格、平成23年不動産鑑定士登録。一般社団法人さいたま幸せ相続相談センター代表理事。
不動産鑑定士試験合格後、都内の不動産鑑定事務所において約2年間、不良債権に係るバルクセール案件の評価、メガバンク依頼による関連会社間における不動産売買にかかる評価など、年間100件以上の案件を手がける。
平成24年かんべ土地建物株式会社に入社後、30億円規模のリノベーションマンション、50億円規模のマンション予定地の売買価格の評価から、借地権及び底地の売買価格の評価まで幅広い案件に携わっている。
実際のマーケットを重視した適正・中立な鑑定評価を心がけ、近年は単なる鑑定評価に留まらず、遺言書の作成・遺留分の減殺請求・借地権や共有の解消といった不動産・相続問題のコンサルティングに力を入れている。
趣味はフットサル、サッカー観戦、料理(得意料理は煮魚)、旅行。
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