遺言でもエンディングノートでもない「紡ぎの書」

相続や終活では遺言やエンディングノートによって、自身の想いを残された人へ伝えて行く方法があります。

私は、父の相続において、生前に遺言もエンディングノートも父へ提案できなかった。

それは、死ぬことを前提にしているからだ。

確かに、誰もがいつか死ぬ。

しかし、具体的にその期日が決まってしまった場合、単純に「ハイ解りました」と受け入れられるのであろうか。

本人だけでなく、家族も「その期日が間違っていて欲しい」「少しでもその日が伸びて欲しい」という気持ちが湧いてくることはは自然だと思うし、私はそう思った。

他方で、「その先」の対策に意識がいってしまう人も多いし、自分自身も意識し、大きな葛藤があった。

 

遺言も、エンディングノートも、「想いを伝えたい人の想いを可視化する」道具であり、「残された人の手続きを少しでも楽にするため」の手段だ。

ここで、目的がすり替わってしまうことがある。

「残された人の手続きを少しでも楽にするため」の手段が優先されることだ。

 

私は、先ず、最も、絶対に、「想いを伝えたい人の想いを可視化させる手段」が上位に来るべきであると考える。

法律の専門家が相談を受けると「遺言」という表現になる。終活の専門家が相談を受ければ「エンディングノート」という表現になる。

確かに間違ってはいない。

 

ところが、一般の人にとっては馴染み難い場合もある。

死に対する覚悟が受け入れられたのであれば、これらの「残された人の手続きを少しでも楽にするため」の手段も効果的かもしれない。

 

私の父は、10月末に体調を崩し検査入院し、11月中旬には治ることがない病状であると知った。

12月に再度入院し、12月中旬には緩和ケアに入院することになり、具体的な余命宣告は受けさせなかったものの、本人も先が長くないことは十分理解していた。

 

父は、検査入院から退院したときに、子供たちに自分の想いを口頭で伝えた。

その備忘録的に私が作成したものが、「紡ぎの書」という題名の書面だ。

子供として、先ず「エンディング」という言葉は使いたくなかった。

終わりを認めたくない、という感情があった。

遺言についても、法律的に必要な状況ではないので作成する必要が無いと判断し、今やれることに集中した。

紡ぎという言葉は、父が繊維関係の仕事をしていたことと、書面の趣旨と合うため採用した。

 

この「紡ぎの書」は、父が自信の旅立ちに向けて伝えておきたい事だけを、「〇〇〇を望む」という表現で箇条書き的に概要をA3用紙1枚をまとめ、父が署名した。

↓このような内容

その後、父は幾度となく表現方法や追記事項などを見直し修正し、都度、妹が文章を修正した。

緩和ケア入院後に、最終版が完成したが、父は署名することなく旅立った。

幾度の修正版は、相続人の子供たちが都度共有していたこともあり、家族葬や知人友人への手紙などの手続きと、遺産分割に必要な分割協議書の作成はこの書を基本にしてスムーズに進められた。

結果、残された我々は慣れない解釈の悩ましい手続きを楽に終えることができた。

 

遺言にしろ、エンディングノートにしろ、伝えたい人だけが一人で作るものではない。

想いを伝えられる事、想いを受け取ることができる事が先ずは大切であると思う。

特に、遺言はこの手順なくして作成することは、不要なトラブルに繋がると私は思う。

 

投稿者プロフィール

堀田直宏
堀田直宏株式会社ダントラスト 代表取締役
<事務所名/肩書き>
株式会社ダントラスト 代表取締役
株式会社 ムサシコンサルティング 代表取締役

宅地建物取引士
(公認)不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
コミュニケーション能力認定1級
認定ファシリテーター(㈱プレスタイム社)
 
<プロフィール>
1969 年生まれ、東京都杉並区出身。
投資不動産デベロッパーにて、執行役員として150 棟を超えるマンション開発に携わる。
多くの専門家とのネットワークと、用地買収に不可欠な権利調整の実務経験を活かし、権利調整を得意とする、超実行型不動産コンサルティングとして、平成25年3月に独立開業。
令和元年(公益財団法人)不動産流通推進センター主催の事例発表会にて、近隣紛争中の再建築不可物件を再建築可能にした事例(埼玉県飯能市の潜在空き家の活用事例)にて、「不動産エバリューション部門」優秀賞を受賞。
現在、全日本不動産協会東京本部中野杉並支部行政担当(杉並区)副委員長を務め、行政が抱える不動産課題の解決に尽力している。

<セミナー講師及び相談員等の活動実績>
・全日本不動産協会 神奈川支部及び神奈川本部海老名支部の法定研修会をはじめ、某生命保険会社の社内研修、不動産コンサルティング協会(東京支部、静岡支部)・NPO法人相続アドバイザー協議会・一般社団法人全国空き家相談士協会・その他建築会社の家主向けセミナーなど数多くの講師を務める。

<主な著書など>
相続コンサルの奥義(プラチナ出版)
週刊住宅 平成30年11月12日号から「誰でもできる権利調整コンサル」を隔週掲載

週刊現代 
平成31年1月5日、12日号「死ぬ前と死んだあと」特集に寄稿
令和元年9月14日、21日号 『あなたの人生、老親の人生「最後の一週間」の過ごし方』特集に寄稿