不動産の現場から民法を考察する。第6回

~『第二編物権 第三章「所有権」第一節 所有権の限界 第二款 相隣関係 第209条(隣地の使用請求)』①~

条文:209条:土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

(考察)

前回、前々回にて、所有権について考察している。所有権はその物を全面的に直接支配する事を第三者に主張できる権利だ。

この物に対する所有権について206、207条で定めた直後(208条は存在しません)に、相隣関係として土地所有権の取り扱いが定められているのは、土地の所有権の重要度が高いということなのではないだろうか。

土地は、原則、隣接地がない状態では存在しない。かならず、自分の土地の周辺は誰かの土地が存在する。すると、その隣接地の所有者と仲良く暮らす必要に迫られる。

時に、隣接地所有者が、自己の障壁や建物の工事を行うために、隣接地の土地を借りなければならないこともある。

そのような場合までも、工事を行わない人の権利を優先してしまい、隣接地の所有者が障壁や建物の工事ができないことがないように、隣地の使用を請求することができる。としているのだ。ただし、請求できること、と、使用できること、は別だ。

「申し訳ないですが、工事をするので貴方の土地の一部を貸していただけませんか?(請求)」「もちろん良いですよ(承諾)」という行為があって初めて、隣地の土地を利用できるのであって、やはり、社会生活の基盤となる「コミュニケーション」は重要だ。

とはいえ、双方の意思が合致しても、現実的にその空間が無ければ、話にならない。

よって、第234条(境界線付近の建築制限。※1)にて境界線から50センチメートル以上の距離を保つことを定め(その他の理由として通風や避難経路の確保がある)、また、第237条(境界線付近の掘削の制限)や第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)によって境界線付近の地盤の強度や環境維持を保つ様に定めている。(※1)、

 

(まとめ)

隣接する者同士の土地所有権の保全を現実化させるためにも、民法は隣接地所有者の双方に境界線付近の取り扱義務を課しているのではないだろうか。

「袖振り合うのも多生の縁」(※2)という言葉があるが、旅の途中という一時的なことではなく、隣接地所有者とはその土地を所有している期間に亘って縁を持つことである。

自分の土地の権利を守るためにも、他人の土地の権利を尊重する気持ちを持つことが、結果的に自分の土地の権利を守ることに繋がるように、民法は作られているのではないだろうか。

 

(※1)

(境界線付近の建築の制限)

第二百三十四条 建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。

 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

 

(境界線付近の掘削の制限)

第二百三十七条 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から二メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から一メートル以上の距離を保たなければならない。

 導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの二分の一以上の距離を保たなければならない。ただし、一メートルを超えることを要しない。

 

(境界線付近の掘削に関する注意義務)

第二百三十八条 境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。

 

 

(※2)

道を行く時、見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁によるとの意。どんな

小さな事、ちょっとした人との交渉も偶然に起こるのではなく、すべて深い宿縁によって起

こるのだということ。(出典:精選版 日本国語大辞典)

投稿者プロフィール

堀田直宏
堀田直宏株式会社ダントラスト 代表取締役
<事務所名/肩書き>
株式会社ダントラスト 代表取締役
株式会社 ムサシコンサルティング 代表取締役

宅地建物取引士
(公認)不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
コミュニケーション能力認定1級
認定ファシリテーター(㈱プレスタイム社)
 
<プロフィール>
1969 年生まれ、東京都杉並区出身。
投資不動産デベロッパーにて、執行役員として150 棟を超えるマンション開発に携わる。
多くの専門家とのネットワークと、用地買収に不可欠な権利調整の実務経験を活かし、権利調整を得意とする、超実行型不動産コンサルティングとして、平成25年3月に独立開業。
令和元年(公益財団法人)不動産流通推進センター主催の事例発表会にて、近隣紛争中の再建築不可物件を再建築可能にした事例(埼玉県飯能市の潜在空き家の活用事例)にて、「不動産エバリューション部門」優秀賞を受賞。
現在、全日本不動産協会東京本部中野杉並支部行政担当(杉並区)副委員長を務め、行政が抱える不動産課題の解決に尽力している。

<セミナー講師及び相談員等の活動実績>
・全日本不動産協会 神奈川支部及び神奈川本部海老名支部の法定研修会をはじめ、某生命保険会社の社内研修、不動産コンサルティング協会(東京支部、静岡支部)・NPO法人相続アドバイザー協議会・一般社団法人全国空き家相談士協会・その他建築会社の家主向けセミナーなど数多くの講師を務める。

<主な著書など>
相続コンサルの奥義(プラチナ出版)
週刊住宅 平成30年11月12日号から「誰でもできる権利調整コンサル」を隔週掲載

週刊現代 
平成31年1月5日、12日号「死ぬ前と死んだあと」特集に寄稿
令和元年9月14日、21日号 『あなたの人生、老親の人生「最後の一週間」の過ごし方』特集に寄稿