不動産の現場から民法を考察する。第4回

~『第二編物権 第三章「所有権」第一節 所有権の限界 第一款 所有権の内容及び範囲 第209条(所有権の内容 第207条(土地所有権の範囲)』①~

条文:206条:所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

:207条:土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

 

(考察)

不動産、動産に関わらず、その物に対する権利(物権)が存在し、物権の一つである所有権は、所有者以外の全ての人に対して権利を主張できる絶対的な財産支配権であるとのこと。

特に土地の場合は、土地の範囲の上空と地中地下に所有権の範囲が及ぶ。

そして、所有権によって認められる行為がA:実需(所有者が所有物を「使用」すること)、B:賃貸(使用せずに他者に貸して「収益」を得ること)C:売却(ABの必要がなく「処分」(換金))となる。

所有権を持つことで、例えば、「使用」においては、土地の所有者は自分の敷地に建物を建てず、法令の制限内において、空中にラジコンやドローンを飛ばして楽しむことができる。これが土地の上に所有権が及ぶということで、また、地中にシェルターを作って災害対策を講じることは、土地の下に所有権が及ぶということの一例であろう。当然、普通に建物を建てる事も問題ない。

次に、土地所有者が土地を使わない場合、所有権者以外の者に当該土地の空中や地中を利用してもらうことで収益を得ることができる。

しかし、この社会生活の基盤となる不動産(土地)の賃貸は、借りる者に対して一定の権利を与える必要があるし、その権利によって土地所有者の土地所有権は大きな制限をうけることになる。

日本は、他国と異なり、不動産は、土地と建物にわけて取り扱われる。推測であるが、日本の場合はまず土地は建物を建てる事よりも、土地を利用する農耕利用が前提となっているのだろう。

土地所有権者の権利行使を制限する制限物権(※1)のうち、借りた者が使用収益する権利の用益物権が「地上権」「永小作権」「地役権」「入会権」、といった種別に分類されていることから、原始的には農耕利用者の農耕作業の権利の一種であったと推測できる。(※2)

今回は、用益物権において、もっとも馴染みの多い「地上権」について考えを深めたい。

地上権は、※2のとおり、民法265条にて次のように定義されている。

他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。

本来、農業耕作業の権利の一種であった時代は良いのだろうが、時代が変わり、借主が建物を建築し、居住用もしくは事業用として建物を利用する場合、財産的価値の高い不動産の建物所有権を借主が持つこととなり、簡単には建物は滅失することはなく、土地所有者がその土地の利用を長期間制限されるようになると、土地所有者は農業耕作業による収益(小作料)は見込まれず、単純に土地を貸している地代の収益しか得ることができず、ましてや、実際に使うことはできない等、所有権の制限を受ける影響が高いにも関わらず、所有する敷地面積に比例して課税されるのでは不合理であるとして、実際の所有権価値と比較して、借地権が付随する土地所有権価値は大きく減価するべき、という考えになったのではないだろうか。

他方で、土地所有権者の権利を制限し土地に建物を建築し利用している借地権者は、土地所有権者が減価した価値と同様の財産的価値を所有しているとみなされても良いと考えられ、(課税する立場からすると、減価した分を誰かに負担してもらいたいと考えるのは当然で)この減価した価値が、路線価に借地権割合を乗じた価格、いわゆる「借地権価格」と、課税当局が判断したのだろう。

更に、農業耕作事業ではなく一般生活の基盤となる財産的価値の高い建物が建築されるようになることで、権利の原始的趣旨に添わない利用方法となり、かつ、その価値が経済の発展に伴って増加するなど地上権では対応できなくなり、借地権を後から作って補ったのではないだろうか。

となると、地主制度の是非は別として、元々の趣旨とは異なる結果となった地上権という権利について土地所有権者としては、元々の解釈とことなる状況になり、不満が残るのではないだろうか。

(まとめ)

実務を通じて思うのは、この不満を減らす方法が、借地権売買や建て替え時の土地所有権者の承諾料なのだと思う。

なぜなら、土地所有権者の承諾を必要とすることは、借地権者だけが借地権の処分による(土地所有者が土地を長期間に亘って使用する制限価値が市場動向によって上昇する等の)利益の独り占めを予防することや、土地所有権に含まれる収益効果を土地所有権者が得られる事によって、上述の土地所有権者の不満が低減し、土地所有権者が歩み寄ってくれる可能性が高まるからだ。

 

※1:制限物権のうち、使用と収益を得る権利を「用益物権」と表現し、一定の条件下において当該財産を処分する権利を「担保物権」と表現し、「担保物権」は、法律で定める法定担保物権と、契約書などで定める約定担保物権に分類される。

※2:

「地上権」は、民法265条に、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。と定義

「永小作権」は、民法270条に、永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。と定義

「地役権」は、民法280条に、地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。他人の土地を自分の土地の為に利用(通行や水路設置)する権利。と定義。

「入会権」は、民法294条に、共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。と定義。

 

 

投稿者プロフィール

堀田直宏
堀田直宏株式会社ダントラスト 代表取締役
<事務所名/肩書き>
株式会社ダントラスト 代表取締役
株式会社 ムサシコンサルティング 代表取締役

宅地建物取引士
(公認)不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
コミュニケーション能力認定1級
認定ファシリテーター(㈱プレスタイム社)
 
<プロフィール>
1969 年生まれ、東京都杉並区出身。
投資不動産デベロッパーにて、執行役員として150 棟を超えるマンション開発に携わる。
多くの専門家とのネットワークと、用地買収に不可欠な権利調整の実務経験を活かし、権利調整を得意とする、超実行型不動産コンサルティングとして、平成25年3月に独立開業。
令和元年(公益財団法人)不動産流通推進センター主催の事例発表会にて、近隣紛争中の再建築不可物件を再建築可能にした事例(埼玉県飯能市の潜在空き家の活用事例)にて、「不動産エバリューション部門」優秀賞を受賞。
現在、全日本不動産協会東京本部中野杉並支部行政担当(杉並区)副委員長を務め、行政が抱える不動産課題の解決に尽力している。

<セミナー講師及び相談員等の活動実績>
・全日本不動産協会 神奈川支部及び神奈川本部海老名支部の法定研修会をはじめ、某生命保険会社の社内研修、不動産コンサルティング協会(東京支部、静岡支部)・NPO法人相続アドバイザー協議会・一般社団法人全国空き家相談士協会・その他建築会社の家主向けセミナーなど数多くの講師を務める。

<主な著書など>
相続コンサルの奥義(プラチナ出版)
週刊住宅 平成30年11月12日号から「誰でもできる権利調整コンサル」を隔週掲載

週刊現代 
平成31年1月5日、12日号「死ぬ前と死んだあと」特集に寄稿
令和元年9月14日、21日号 『あなたの人生、老親の人生「最後の一週間」の過ごし方』特集に寄稿

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