不動産の現場から民法を考察する。第1回

~『第一編総則 第四章「物」第86条(不動産及び動産)』①~

条文:土地及びその定着物は、不動産とする。

2.不動産以外の物は、全て動産とする。

 

(考察)

不動産は、土地及びその定着物であるとのこと。一般的に、不動産といえば土地と建物を指すのだろうが、定着物ということであれば、建物だけでなく、樹木・門扉・塀など、一見すると安易に移動できるような物であっても地中に基礎があり安易に移動できない状態であれば定着物となる。(基礎がなくとも大きな石などは安易に移動できないので定着物となる)

他方で、簡単に移動できる物置や鉢植えの植物などは不動産とはいえず、動産と分類されるのだろう。

不動産の特性として、「固定性」「不動性」「永続性」「不増性」「個別性」がある。(※1)

これらを全て満たしているのが土地であるが、その土地に定着している建物は、「固定性」「不増性」を満たすものの、「不動性(※2)」「永続性」「個別性(※3)」は満たさない。しかし、土地に定着しているため、不動産の一種として仕方なく認めたのではないだろうか。

 

原始的には、土地は自然に創られてきたものである。そして、人々が必要な食物や素材が育成するために必要な天然資源であり第一次産業の基盤である。多くの人の身近にある建物は、これら資源育成の世話をする人間や家畜の安全や、収穫物の保管のための空間として後発的に建てられてきたのは疑いようがないことから、建物はあくまでも土地に付随するオマケなのだ。

 

しかし、現代では、土地そのものを活用する第一次産業ではなく、土地の上に、工場・事務所・倉庫そして賃貸住宅等を建て、建物を利用して収益をあげている産業が多い。

特に、賃貸住宅を建てて収益をあげている場合は、多くの人は、土地よりも建物に対する意識が強く、オマケである建物が主となり建物に土地が付随しているかのような意識を持っている人も多い。

 

確かに、収益に直結する賃料は建物仕様によって変動するため、土地意識が薄まってしまうのも理解できるが、不動産賃貸業という言葉を分解すれば、「原則の土地と、オマケの建物を貸して収益を得る事業」という事になる。

建物は不動産の一種であるが、特に「永続性」「個別性」はない。

そして、建物を構成する資材はいずれ朽ち果てるのだし、同様の仕様の建物が造られてゆく。

(まとめ)

不動産の原則は「土地」である。どのような不動産活用をするにしても、最後に残るその土地が、将来まで価格を維持しつづけることができる要因を冷静に見極めなければならない。

その価格形成要因は、①一般的要因:自然的要因、社会的要因、経済的要因、行政的要因、②地域的要因:宅地地域、某業地域、林地地域に大きく影響される(国交省発行、不動産鑑定評価基準より)が、この影響に一個人が抗うことはできない。

だからこそ、この悪い影響を受けた場合、売るに売れない、「負動産」「腐動産」などと揶揄される不動産が存在することになる。土地神話がまさに神話であったことの証明である。このような事実に向き合い、活用する予定の土地の将来的価値を冷静にとらえることが、不動産活用の最初の一歩ではないだろうか。

 

(補足)

※1:国交省発行、不動産鑑定評価基準より。

※2:建物も分解し移動させることや毀損して一部が移動するなど、物理的には可能。

※3:昨今、建物の個別性は差別化という名のもと様々な仕様によって個別性を高めようとしているが、瞬間的に差別化されたとしても同じ事を他者が行えば、個別性はなくなるため、絶対的な個別性とは言えない。

投稿者プロフィール

堀田 直宏
堀田 直宏株式会社ダントラスト 代表取締役
<事務所名/肩書き>
株式会社ダントラスト 代表取締役
株式会社 ムサシコンサルティング 代表取締役

宅地建物取引士
(公認)不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
コミュニケーション能力認定1級
認定ファシリテーター(㈱プレスタイム社)
 
<プロフィール>
1969 年生まれ、東京都杉並区出身。
投資不動産デベロッパーにて、執行役員として150 棟を超えるマンション開発に携わる。
多くの専門家とのネットワークと、用地買収に不可欠な権利調整の実務経験を活かし、権利調整を得意とする、超実行型不動産コンサルティングとして、平成25年3月に独立開業。
令和元年(公益財団法人)不動産流通推進センター主催の事例発表会にて、近隣紛争中の再建築不可物件を再建築可能にした事例(埼玉県飯能市の潜在空き家の活用事例)にて、「不動産エバリューション部門」優秀賞を受賞。
現在、全日本不動産協会東京本部中野杉並支部行政担当(杉並区)副委員長を務め、行政が抱える不動産課題の解決に尽力している。

<セミナー講師及び相談員等の活動実績>
・全日本不動産協会 神奈川支部及び神奈川本部海老名支部の法定研修会をはじめ、某生命保険会社の社内研修、不動産コンサルティング協会(東京支部、静岡支部)・NPO法人相続アドバイザー協議会・一般社団法人全国空き家相談士協会・その他建築会社の家主向けセミナーなど数多くの講師を務める。

<主な著書など>
相続コンサルの奥義(プラチナ出版)
週刊住宅 平成30年11月12日号から「誰でもできる権利調整コンサル」を隔週掲載

週刊現代 
平成31年1月5日、12日号「死ぬ前と死んだあと」特集に寄稿
令和元年9月14日、21日号 『あなたの人生、老親の人生「最後の一週間」の過ごし方』特集に寄稿